【櫻井敦司】BUCK-TICKと“we”が繋ぐもの——喪失から未来へ

あの日から2年——櫻井敦司という存在の重さ

2023年10月19日。横浜で行われたライブの最中、櫻井敦司は突然倒れ、そのまま帰らぬ人となった。57歳。
あの日から2年が経っても、彼の声と存在感は、音楽の中で今も息づいている。
1980年代から日本のロックシーンに「美と闇」「耽美と現実」を共存させた唯一無二の存在。BUCK-TICKのボーカルとしてだけでなく、時代そのものを象徴する表現者だった。
その歌詞は常に「生きることの痛み」を包み隠さず描き、それでもどこかに希望の火をともしていた。
彼の死を通じて、多くのファンが改めて感じたのは「櫻井敦司という人がどれだけ“生きる”という行為に誠実だったか」だ。言葉ではなく、生き方で示した人だった。

2025年のBUCK-TICK——止まらない「音」

櫻井を失った後も、BUCK-TICKは歩みを止めていない。
2024年には新作シングル「雷神 風神 – レゾナンス」が発表され、同年12月にはアルバム『スブロサ SUBROSA』のリリースも決定した。
それらの作品には、失われたものへの哀悼だけでなく、「音で生き続ける」という強い意思が込められている。
ステージの中央に彼の姿はもうない。それでも、メンバーたちは彼の声を受け継ぐように演奏を続ける。
観客は沈黙の中で拍手を送り、まるで彼と同じ場所にいるかのように感じている。
BUCK-TICKは終わらない」——それは、喪失の中から立ち上がる者たちの祈りそのものだ。

“we”という言葉が示すもの

最近、ファンの間で「we」という言葉が頻繁に見られるようになった。
“we”とは、単なる代名詞ではない。櫻井の死を経て、ファンとバンドが共有する「私たち」の意識そのものだ。
彼が残した音と言葉を媒介に、個人の悲しみが“we”という共同体へと変わっていく。
SNSで交わされるメッセージの多くが「we will continue」「we are with you」といった形を取るのも象徴的だ。
それは“彼のために”ではなく、“彼とともに”生きる宣言。
櫻井敦司がステージで放っていた「共に堕ち、共に救われる」というテーマが、今ようやく現実の形を持ちはじめている。

ファンが紡ぐ記憶と祈り

2024年の一周忌には公式サイトでWEB献花が開設され、全国から数多くのメッセージが寄せられた。
そして2025年には書籍『櫻井敦司読本』の刊行も予定されており、ファンや評論家が彼の人生と音楽を丁寧に記録している。
時間が経つほどに、人々の言葉が静かで深くなっていく。
「忘れない」という叫びから、「生きている」という確信へ。
音楽は形を変えても、人の中で鳴り続ける。
櫻井敦司という存在は、もはや記憶ではなく、今この瞬間にも更新され続けている「体験」だ。

“これから”をどう受け取るか

BUCK-TICKの未来を語ることは、簡単ではない。
だが、彼らが今も“音”を鳴らし続けているという事実が、何よりの答えだ。
ファンにできるのは、その音を聴き、共に在ること。“we”として。
櫻井敦司が残したものは、悲しみではなく、共鳴だ。
そしてその共鳴は、今日もどこかで誰かを動かしている。
静かに、しかし確かに——未来へ。