【べらぼう第19話】「恋川春町争奪戦」が熱い!"黄表紙の祖"の実像と蔦重との未来構想に視聴者感動

5月18日放送のNHK大河ドラマ「べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~」第19話「鱗の置き土産」が放送され、SNS上で大きな話題となっています。特に恋川春町岡山天音)をめぐる展開に、多くの視聴者が涙したという声が続出!歴史的にも重要な意義を持つ「黄表紙の祖」とされる恋川春町の実像と、ドラマでの描かれ方を徹底解説します。

第19話「鱗の置き土産」で描かれた恋川春町の葛藤

鱗形屋閉店と春町の去就が話題に

5月18日放送の第19話「鱗の置き土産」では、経営難に陥った老舗版元・鱗形屋孫兵衛(片岡愛之助)が店を畳むという展開から物語が始まりました。老舗の終焉と共に、その才能が高く評価されていたお抱え作家・恋川春町岡山天音)の去就が大きな焦点となります。

劇中では、鱗形屋が鶴屋(風間俊介)や西村屋(西村まさ彦)らと今後について協議する場面があり、そこで春町は今後鶴屋で書くことが決まったという設定。この展開に対し、主人公・蔦屋重三郎横浜流星)は市中の地本問屋たちの勢いに対抗するため、春町の獲得に向けて作戦を練るという「春町争奪戦」が描かれました。

また、江戸城では知保の方(高梨臨)が毒による自害騒ぎを起こし、田沼意次渡辺謙)が事情を探るというサイドストーリーも同時進行。時代の転換点を様々な角度から描き出す構成となっています。

「百年先の江戸」構想で心を動かされた春町

本話の見どころは何と言っても、蔦重が春町に提案した「百年先の江戸を描いてみませんか?」というシーン。「百年先の髷ってどうなってるか見てみたくねぇですか?」と語りかける蔦重の言葉に、春町の喉仏が動くという繊細な演出が視聴者の心を打ちました。

歴史的には、恋川春町は『無益委記(むだいき)』という作品で未来の江戸を予想した前衛的な内容を描いており、ドラマではこの着想の元となるような展開を描いています。蔦重の熱意と創造力に共鳴した春町が、新たな創作への意欲を取り戻していく姿に、SNS上では「神回」「感動した」という声が続出しました。

黄表紙の祖・恋川春町の実像

武士と戯作者の二足のわらじを履いた稀有な才能

恋川春町は延享元年(1744年)に生まれ、寛政元年(1789年)に亡くなった江戸時代中期の戯作者、浮世絵師です。実は彼の本名は倉橋格(いたる)。駿河小島藩(現在の静岡県静岡市付近)の藩士として、「留守居役」や「加判」などの要職を歴任する傍ら、創作活動を行っていました。

狂歌師としては「酒上不埒(さけのうえのふらち)」という酒席での奔放さを思わせる号も持っていました。絵については鳥山石燕や勝川春章に学び、「恋川春町」という筆名も、江戸藩邸のあった小石川春日町に由来するとともに、当時の人気絵師・勝川春章を踏まえたものだと言われています。

最終的に石高120石にまで出世した春町は、武士としても真面目に職務を全うする一方で、その創造力を戯作に注ぎました。この「二足のわらじ」の生き方こそが、彼の作品に独自の視点をもたらした源泉だったのかもしれません。

金々先生栄花夢』で江戸文化を変革

恋川春町の最大の功績は、安永4年(1775年)に発表した『金々先生栄花夢(きんきんせんせいえいがのゆめ)』で黄表紙というジャンルを開拓したことです。それまでの草双紙とは一線を画す、大人向けの読み物として評判になりました。

金々先生栄花夢』は、一旗挙げようと田舎から江戸に出てきた若者のお話で、江戸であわ餅屋に立ち寄った際に見た夢の中で大金持ちに出会い、店の跡取りになって大豪遊するものの、結局それがすべて夢だったというオチがつくストーリー。当世風俗をうがち、従来の草双紙の作風を一変させた点が高く評価され、以後、安永・天明期にかけて多数の自画作品を発表しました。

この作品の成功により、それ以降、同様のスタイルの作品を「黄表紙」と呼ぶようになりました。黄表紙の名前の由来は、それまで表紙に青色が使われ「青本」と呼ばれていたものが、日光の退色で黄色くなるため、色落ちが分かりにくい黄色の表紙が用いられるようになったことに由来します。

寛政の改革と悲劇的な最期

残念ながら、恋川春町の人生は悲劇的な形で幕を閉じます。天明7年(1787年)に起こった天明の大飢饉により民衆の不満が爆発し、田沼意次が失脚。松平定信が質素倹約、浮世のムードを引き締める寛政の改革を断行します。

この政変の中、寛政元年(1789年)に出版された『鸚鵡返文武二道(おうむがえしぶんぶのふたみち)』で、春町は寛政改革を風刺し大ヒットを飛ばします。しかし、これが幕府の逆鱗に触れることになりました。同様に武士で文筆活動をしていた大田南畝や朋誠堂喜三二も次々と文芸界と距離を置き、本業に戻っていきました。

実直な養父から継承した倉橋家に傷をつけたことを気に病んだのか、春町はこの年に突然亡くなります。一部には自死との噂も流れました。義理堅く、才能にあふれた春町は46歳という若さでこの世を去ることになったのです。

SNSで大反響!視聴者が語る第19話の名シーン

「粋か無粋か」の価値観に共感の声

X(旧Twitter)では「#大河べらぼう」「#恋川春町」などのハッシュタグと共に多くの感想が投稿され、とりわけ「善か悪か」ではなく「粋か無粋か」で物事を判断する価値観に共感の声が寄せられました。

視聴者からは「べらぼうの世界観の魅力がここに詰まっている」「この価値観の設定があるから、キャラ同士の衝突もどこか納得できる」といった声が上がっています。歴史ドラマでありながら、現代にも通じる価値観のぶつかり合いを描き出している点が高く評価されているようです。

春町と蔦重の掛け合いに涙

特に視聴者の心を打ったのは、春町と蔦重のやり取り。「間の取り方と構図が生む心理描写の深み」として、春町が蔦重の言葉に反応して喉仏が動くシーンが絶賛されています。静かなカットでありながら感情が爆発しているような演出が、視聴者の涙を誘いました。

また、蔦重役の横浜流星の演技についても「声のトーンから目の動き、指先の演技まで、すべてが丁寧に感情を表現している」「一瞬の表情で蔦重の想いが伝わる」と高い評価が寄せられています。春町役の岡山天音との掛け合いは、説得ではなく共鳴を感じさせる名シーンとなりました。

歴史とフィクションの交差点?大河ドラマ「べらぼう」の魅力

実在の文化人たちの人間関係を再構築

「べらぼう」の魅力の一つは、蔦屋重三郎恋川春町、鱗形屋孫兵衛など、実在した江戸の文化人たちの人間関係をドラマティックに再構築している点です。歴史的には、鱗形屋の経営悪化により蔦屋が台頭し、春町は鱗形屋と蔦屋の両方から黄表紙を出版していた記録があります。

鱗形屋の危機の際には義理を立てて執筆を休止したとされる春町の人物像も、ドラマでは義理人情に厚い人物として描かれており、歴史的事実を踏まえながらも、ドラマならではの解釈が加えられています。

江戸時代の出版文化が現代に問いかけるもの

「べらぼう」が描く江戸時代後期の出版文化の勃興は、現代のコンテンツ産業やメディアの原型を見る思いがします。庶民が楽しめる絵入りの読み物として人気を博した黄表紙は、いわば現代のマンガやエンターテインメント小説の先駆けとも言えるでしょう。

スポンサーの意向や権力との緊張関係、クリエイターの自由と責任、そして何より「面白いものを作りたい」という情熱が時代を超えて共鳴する様子は、現代のクリエイティブ産業にも通じるものがあります。

「百年先の江戸を描く」という春町と蔦重の野心的な企画は、ドラマ内のフィクションですが、実際の春町が『無益委記』で未来の江戸を予想していたことを踏まえると、妙な説得力があります。既存の枠にとらわれず、想像力で未来を切り開いていく姿勢は、236年経った現代の私たちにも大きなインスピレーションを与えてくれるのではないでしょうか。

次回第20話の展開も楽しみですね!蔦重と春町のタッグでどんな「百年先の江戸」が描かれるのか、来週の放送も見逃せません。