2025年11月29日、富山県総合運動公園陸上競技場がどよめきと涙に包まれた。
明治安田J2リーグ最終節、カターレ富山対ブラウブリッツ秋田。
後半アディショナルタイム3分、ピッチに立っていたのは18歳の高卒ルーキー、亀田歩夢である。
ドリブルで相手DFを振り切り、右足を振り抜いた一撃はゴール右隅へ。
スコアは4対1となり、その1点がロアッソ熊本との「得失点差1」をひっくり返し、クラブのJ2残留を決めた。
ネット上では「大大逆転」「伝説のJ2残留ゴール」といった言葉が飛び交い、亀田歩夢の名前が一気にトレンド入りしている。
この記事では、試合の流れとJ2残留争いの構図、高卒ルーキー・亀田歩夢とはどんな選手なのか、そしてこのゴールが持つ意味を整理していく。
カターレ富山が迎えた「崖っぷち」の最終節
2025年シーズンのカターレ富山は、11年ぶりに戻ってきたJ2の舞台で苦しみ続けたクラブである。
開幕からなかなか波に乗れず、シーズン終盤まで降格争いに巻き込まれた。
第35節を終えた時点で、富山は自動降格圏の18位。
残留圏内である17位ロアッソ熊本との勝ち点差は「7」にまで開いていた。
普通に考えれば、ここからの残留はほぼ不可能に見えた状況である。
しかしそこから富山は粘りを見せる。
第36節・ホーム鳥栖戦で3対1の快勝、第37節・アウェー甲府戦でも1対0で勝利し、勝ち点を積み上げた。
その結果、最終節を迎える時点で富山と熊本の勝ち点差は「2」まで縮まり、残留争いは一気に現実味を帯びることになる。
さらにややこしいのが得失点差の条件である。
富山は最終節前の時点で熊本より得失点差で大きく劣っており、引き分けや1点差勝利では追いつけない状況だった。
試合前時点で整理すると、富山が残留するための条件はおおよそ次のようなものだった。
- 富山が勝利すること(引き分け以下なら自動的にJ3降格)
- 熊本が敗れれば、勝ち点で逆転し残留
- 熊本が引き分けた場合は、富山が「3点差以上で勝利」して得失点差で上回る必要がある
つまり富山にとっては「勝ち点3」と「複数点差での勝利」が必須条件だったのである。
この状況が、のちに「大大逆転」「得失点差1」のドラマを生む下地になった。
富山4-1秋田 J2残留を決めた90分+α
試合は2025年11月29日14時03分キックオフ。
会場は富山県総合運動公園陸上競技場、シーズンの行方を左右する大一番である。
前半は富山も秋田も決定機を生かし切れず、0対0のまま折り返した。
後半に入ると、ホームの富山が一気にギアを上げる。
後半8分(53分)、古川真人のゴールで富山が先制。
さらに同15分(60分)、布施谷翔が追加点を奪い、スコアは2対0となる。
この時点で「3点差勝利」が見えてきたものの、試合はそう簡単には終わらない。
後半26分(71分)、秋田の岡崎亮平に1点を返され、2対1。
この瞬間、富山の得失点差は熊本に届かないラインになり、スタンドの空気は一気に重くなった。
それでも富山は攻撃の手を緩めない。
後半44分(89分)、椎名伸志が貴重な3点目を奪い、3対1に。
だが、それでもまだ足りない。
熊本が甲府相手に0対0で粘っているという情報が入り、「あと1点取れば得失点差で並ぶ、もしくは逆転できる」という状況になっていた。
そして迎えた後半アディショナルタイム3分(90分+3分)。
途中出場していた高卒ルーキー、亀田歩夢がボールを受ける。
縦に仕掛け、迫ってくるDFをスピードと切り返しで振り切り、そのまま右足でゴール隅へと流し込んだ。
ボールがネットを揺らした瞬間、スコアは4対1。
この1点で富山の得失点差は「−15」となり、熊本の「−16」をついに上回った。
同時刻に行われていた熊本対甲府は0対0で試合終了。
勝ち点は両チームとも37で並んだものの、得失点差で富山が上回り、J2残留を決めた。
一方の熊本と、19位に沈んだ山口はJ3降格という結末を迎えている。
まさに「試合終了間際」「高卒ルーキー」「J2残留」をすべてひとつのシーンに凝縮したようなゴールだったと言える。
亀田歩夢とはどんな選手か
ここで改めて、トレンドワードになっている亀田歩夢という選手のプロフィールを整理しておきたい。
亀田歩夢は2006年12月19日生まれ、神奈川県出身のMFである。
身長168cm・体重58kgと大柄ではないが、低い重心とスピードを生かしたドリブルが持ち味だ。
ジュニアユース年代ではフットサルクラブのP.S.T.C. LONDRINAでプレーし、その後は高校サッカーの強豪・流通経済大学付属柏高校(流経大柏)に進学している。
流経大柏では背番号8を背負い、2024年度の全国高校サッカー選手権で準優勝。
決勝の国立競技場でも先制ゴールを決めるなど、大舞台で抜群の存在感を発揮した。
大会を通じてドリブル突破とシュートセンスが高く評価され、優秀選手にも選ばれている。
高校卒業後の進路として彼が選んだのが、J2に昇格したばかりのカターレ富山であった。
より注目度の高いJ1クラブからのオファーを予想する声もあった中で、本人は「J2のクラブで試合に出て、自分を成長させたい」という趣旨の考えを示していたと報じられている。
クラブの公式発表では「圧倒的なテクニックとスピードあるドリブルで、個人で局面を打開できる選手」と紹介されており、その評価どおり今回のゴールもまさに“個の力”でこじ開けた一撃であった。
シーズン開幕前のキャンプでは、本人が「テクニックやアイデアには自信があるが、J2の強度に慣れて、チームを勝たせられる選手になりたい」と語っている。
この言葉どおり、試合を重ねる中で守備の強度やスプリント回数など、プロ仕様のプレーを身につけながら今につながっていると考えられる。
高卒ルーキーがJ2残留を決めるまでのプロ1年目
亀田歩夢は2025年シーズン、プロ1年目からトップチームに帯同し、J2第6節でJリーグデビューを果たしている。
当初は途中出場が中心で、いわゆる「切り札」として起用されるケースが多かった。
フィジカルの強いJ2のDF陣を相手に、持ち前のドリブルで仕掛けながらも、ボールロストや守備のポジショニングなど課題も少なくなかったとされる。
それでも夏場以降はベンチ入りの回数が増え、終盤戦にかけて徐々に出場時間を伸ばしていった。
特に相手が疲れてきた時間帯に投入されると、ワンプレーでスタジアムの空気を変えられる存在として、サポーターの期待値はどんどん上がっていった。
そして迎えた最終節。
秋田戦では後半途中から投入され、文字どおり「シーズンの命運を託された高卒ルーキー」となった。
プレッシャーのかかる場面でボールを要求し、ゴールに向かう姿勢を1ミリも失わなかったことが、あの90分+3分のゴールにつながったと言える。
しかも、このゴールは亀田にとってプロ公式戦での初得点である。
高卒1年目、Jリーグ初ゴールがクラブのJ2残留を決める決勝弾というのは、物語としてもでき過ぎているほどだ。
X(旧Twitter)が沸いた「大大逆転」 ファンのリアクション整理
試合直後から、X(旧Twitter)上には亀田歩夢とカターレ富山に関する投稿が一気にあふれた。
Yahoo!リアルタイム検索で「亀田歩夢」を見ると、試合終了直後のタイムラインは歓喜と驚きの声で埋め尽くされている。
実際の投稿内容を要約すると、主に次のような反応が多かった。
- 「大大大大逆転のJ2残留ゴール」と、逆転残留のドラマ性を強調する声
- 「高卒ルーキーが残留決めるのエグい」「持ってる」といったポテンシャルへの驚き
- 「なんでこの選手がJ2にいるのか分からない」「レベルが違う」と、実力をJ1級と見る意見
- 流経大柏時代から追いかけている高校サッカーファンが、「高校の頃から別格だった」と語る投稿
- フットサル時代から知る人々が、LONDRINA出身の選手がJリーグで結果を出したことを喜ぶ声
クラブ公式アカウントやDAZN公式も、試合終了直後にゴールシーンの動画付き投稿を行い、これがさらに拡散を加速させた。
「試合終了」「J2残留」といったワードとともに、「亀田歩夢」「カターレ富山」が一斉にトレンド入りしたのは、こうした投稿の連鎖によるものである。
なぜこのゴールは特別視されるのか
Jリーグには毎シーズン数多くの劇的ゴールが生まれるが、それでも今回の一撃が特別視される理由はいくつかある。
1. クラブの命運を変えた「得失点差1」のゴールであること
今回の残留劇は、勝ち点ではなく「得失点差1」で残留と降格が分かれた。
もし亀田の4点目が決まっていなければ、富山と熊本の得失点差は逆転しておらず、富山がJ3降格になっていた可能性が高い。
つまり、「1点取るか取らないか」で来季のカテゴリーが丸ごと変わっていたのであり、その1点を決めたのが18歳の高卒ルーキーだったという事実がドラマ性を極端に高めている。
2. 高卒ルーキーのプロ初ゴールだったこと
シーズンを通じてチャンスをうかがっていたルーキーが、よりによって最終節の後半アディショナルタイムで初ゴール。
しかもそれが、クラブをJ2に残す決定打になった。
キャリアの最初の一歩から「伝説」と呼ばれるようなゴールを決めた選手はそう多くない。
サポーターにとっては一生忘れられない瞬間になっただろうし、選手本人にとっても以降のキャリアで折に触れて語られる“原点”になるはずだ。
3. ドリブラーらしい「個で局面を変えた」形だったこと
亀田のゴールは、単にこぼれ球を押し込んだものではなく、自らドリブルで仕掛けて相手守備陣を崩し切った形だった。
高校時代から「ドリブルで試合の流れを変える選手」として注目されていた彼が、プロの舞台でも同じように個の力で局面を打開してみせた。
その意味で、スタイルとストーリーがきれいに重なったゴールでもある。
高校サッカーからJ2へ 亀田歩夢のバックグラウンド
亀田歩夢の名前を聞いて「高校サッカー選手権で見たことがある」と感じた人も多いはずだ。
流経大柏のエースとして出場した選手権では、国立競技場での決勝を含め、大会を通して多くのサッカーファンの記憶に残るプレーを見せた。
決勝では前橋育英相手に先制点を奪い、5万人を超える観衆を沸かせたが、チームはPK戦の末に惜しくも準優勝に終わった。
試合後のコメントでは、国立競技場でプレーできたことを「一生の財産」と表現し、日本代表や海外挑戦を将来の目標として語っている。
悔しさの中でも前向きな言葉を残していたのが印象的だ。
その後、J2昇格を決めていたカターレ富山への加入を選択。
より出場機会を得て成長したいという意図が感じられる選択であり、実際に1年目からJ2のピッチに立っている。
高校時代から「一番嫌だった相手」と評されたドリブル能力は、プロの世界でも十分に通用することを今回のゴールで証明したと言える。
カターレ富山の視点から見る「J2残留」の重み
今回の大大逆転劇は、亀田個人だけでなく、クラブとしてのカターレ富山にとっても極めて大きな意味を持つ。
J2とJ3の差は「1カテゴリー以上」のインパクト
Jリーグの現状では、J2とJ3の間には集客、スポンサー収入、露出など多くの面で大きな差がある。
J3降格となれば、クラブの予算規模や補強計画、アカデミーへの投資など、あらゆる部分を見直す必要が出てくる。
逆にJ2残留を果たせば、「J2のクラブ」としてのブランド価値を維持したまま、来季の強化や長期的な計画を進めることができる。
昇格1年目での即降格はクラブにとって大きなダメージになり得た。
その崖っぷちから「得失点差1」で生き残ったという事実は、クラブの歴史に刻まれる出来事であり、地域のサポーターにとっても大きな誇りになるだろう。
「不屈」というスローガンを体現した終盤戦
2025年シーズンのカターレ富山は、「不屈」というスローガンを掲げてスタートした。
終盤戦の残留争いはまさにその言葉を体現するような戦いだったと言える。
残り3試合で勝ち点7差という絶望的な状況から、鳥栖戦、甲府戦、そして秋田戦と3試合連続で結果を出し、最後の最後に得失点差で残留をもぎ取った。
このプロセスそのものが、クラブとサポーターに「苦しい状況でも戦い続ければ道は開ける」という経験を刻んだはずだ。
これから亀田歩夢を見るときの「チェックポイント」
今回の大大逆転ゴールをきっかけに、来季から亀田歩夢のプレーを追いかけてみようと思った人も多いはずだ。
どんなポイントに注目すると、彼の魅力がより分かりやすくなるかを整理してみる。
- ドリブルの「間合い」とリズムの変化
- 受ける位置(タッチライン際か、ハーフスペースか)
- 守備での強度や戻り方がシーズンを追うごとにどう変わるか
- 終盤の時間帯に投入されたときの「空気を変える」プレー
- セットプレーのキッカーをどこまで任されるようになるか
特に、J2のように守備がタイトでフィジカルコンタクトも激しいリーグで、どこまで自分のドリブルを出し続けられるかは大きな見どころである。
身体の使い方やボールの置き所を微調整しながら、Jリーグ仕様のドリブラーへと進化していく過程を見るのは、サッカーファンにとって大きな楽しみになるだろう。
今後のキャリアとJリーグ全体へのインパクト
亀田歩夢自身は、高校時代から日本代表や海外移籍を目標として口にしてきた。
もちろん、今回の1ゴールだけでそこに近づいたと断言するのは早計だが、「高卒1年目からこれだけインパクトのある仕事をした」という事実は、今後の評価やチャンスに大きく影響する可能性が高い。
Jリーグ全体で見ても、地方クラブが高卒ルーキーを抜擢し、その選手がシーズンの命運を左右する活躍を見せた事例は、若手育成とスカウトの観点から非常に示唆に富んでいる。
J1クラブだけでなく、J2・J3のクラブにとっても、「高校年代で光っているタレントに早くから目をつけ、出場機会を用意する」ことの価値を再確認させる出来事になったと言える。
まとめ:J2残留劇が教えてくれること
カターレ富山のJ2残留は、数字だけを追えば「勝ち点37・得失点差−15で残留」という結果にすぎない。
しかし、その裏側には
「残り3試合で勝ち点7差」
「最終節は3点差以上の勝利が必要」
「高卒ルーキーのプロ初ゴールが得失点差1をひっくり返した」
というドラマが凝縮されている。
亀田歩夢の名前がトレンドワード「亀田歩夢」として急上昇したのは、このドラマの“主役”だったからだ。
大大逆転のJ2残留、その象徴となるゴールを決めた18歳のドリブラーは、これからJリーグのどんな物語を紡いでいくのか。
今回の一撃をきっかけに、彼とカターレ富山の歩みを追いかけていく価値は十分にあると言ってよいだろう。