江戸の怪と美の交差点──「石燕先生」と大河『べらぼう』がつなぐ物語

石燕先生とは何者か──妖怪画の祖と呼ばれた絵師

江戸中期、鳥山石燕(1712~1788)は妖怪画の世界に革命をもたらした人物です。彼の代表作『画図百鬼夜行』は、妖怪の名前と姿をペアで描いた図鑑のような構成で、現代の私たちが思い浮かべる「河童」「ろくろ首」「猫また」といった妖怪像の源泉となりました。
石燕は単なる画家ではなく、妖怪の造形を通じて人々の恐怖や好奇心を視覚化する文化的翻訳者でした。その影響は弟子たちにも広がり、喜多川歌麿恋川春町など、後に浮世絵界を牽引する絵師たちを輩出しました。

大河『べらぼう』第30回「人まね歌麿」の衝撃

2025年8月放送のNHK大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』第30回は、「人まね歌麿」という挑発的なタイトルで視聴者を驚かせました。
物語では、出版商・蔦屋重三郎が絵師・喜多川歌麿に「他人の真似ではなく、お前だけの絵を描け」と迫ります。歌麿はその期待の重さに苦しみながらも、自分の芸術的個性を模索する…という緊迫した展開でした。
このエピソードの中で、石燕先生の名が登場し、歌麿の芸術的ルーツや師弟関係を想起させる演出が話題に。

・「石燕先生の名が大河で出てテンション上がった」
・「人まね歌麿ってタイトルがもう切ない」
・「蔦重と石燕を同じドラマで観られるの嬉しい」
・「史実とどう違うのか気になる」



枕絵、松平定信、蔦重──江戸の表と裏

江戸文化の花形だった浮世絵には、色恋や艶を描く「枕絵(春画)」も含まれていました。これらは芸術であると同時に庶民の娯楽でもありましたが、松平定信の「寛政の改革」により出版規制の対象となります。
蔦屋重三郎はそんな時代の荒波の中でも文化人ネットワークを駆使し、新しい才能を発掘し続けました。その人脈の一角に、石燕から技術と発想を受け継いだ絵師たちが存在していたことは見逃せません。

ドラマと史実のズレを楽しむ

史実上、石燕と歌麿の直接的な師弟関係は明確ではありません。しかしドラマでは、石燕の名を通じて「芸術の継承」というテーマを象徴的に描き出しています。
「人まね」という言葉は、江戸時代にも現代にも響く普遍的な問いかけです。ドラマは歴史改変を巧みに使い、視聴者に創作の葛藤を身近に感じさせました。

ネットの温度感と注目の理由

SNS上では、石燕先生という歴史的存在が大河ドラマに登場したことで、妖怪文化や浮世絵に興味を持つ人が急増しています。
特に美術館やイベントでは「妖怪特集」が人気を集めており、このタイミングでの放送は石燕再評価の追い風となりました。歌麿や蔦重といった浮世絵のスターたちも、改めて注目されています。

まとめ──江戸の怪と美が現代に蘇る

『べらぼう』は、江戸時代の出版文化を背景に、芸術家が直面する永遠のテーマ「模倣と創造」を描きました。
石燕が築いた妖怪の世界は、弟子や後進に受け継がれ、さらに時代を超えて現代の創作にも影響を与え続けています。
歴史ドラマをきっかけに、江戸の怪異と美の世界が再び脚光を浴びているのは、時代が変わっても人々が物語とイメージの力を求めている証といえるでしょう。